手を酷使して覚えるという流儀と早くから手入れを習慣にする流儀の静かな分かれ道

手を使い込む流儀と手を守る流儀

お菓子を作る現場には、手を使い込むことでしか覚えられないという考え方が古くから伝わっています。その一方で、長く働き続けるために早くから手入れを習慣にするという考え方も静かに広がってきました。

どちらの流儀も、この仕事を大切にしたいという同じ気持ちから生まれてきたものだといえるでしょう。だから対立しているように見えていても、実際には重なり合う部分がとても多いように感じられます。

手を使い込む流儀は、感覚を早い時期に育てられるという点で確かな強みを持っていると考えられています。素手でしか分からない生地の様子があるという言い分には、うなずける部分が確かにあるものです。

一方で手を守る流儀は、働き続けられる年月を長くするという点で大きな意味を持っているといえます。同じ人が同じ質のまま作り続けられるということは、店にとっても静かな財産になっていくからです。

パティシエの手は、道具であると同時に、細かな違いを受け取るための感覚の窓口にもなっています。だからこそ、その手をどのように扱うのかという問いは、この仕事に長く付きまとうことになります。

水を使う工程が多い仕事であるため、手が荒れやすい仕事だといわれることも少なくないようです。だから作り手たちは、それぞれのやり方で自分の手をいたわる習慣を静かに持ち続けているようです。

若いうちは無理がきくという言葉は昔からありますが、その言葉に寄りかかりすぎない姿勢も広がっています。早い時期から習慣を整えておいたほうが楽だという声が、現場からも聞こえてくるようになりました。

手の調子は日によって変わっていくため、その日の状態に合わせて段取りを組み替える人もいます。無理をして同じ順番のまま進めるよりも、動かし方を変えるほうが結果が良くなることもあります。

気になることがあれば、独りで抱え込まずに先輩や周りの人へ相談できる関係がとても大切になります。相談できる相手がいるというだけで、判断に迷ったときの心持ちがずいぶん変わってくるものです。

この二つの流儀は、どちらか一方だけを選ばなければならないというものではないように思われます。場面によって使い分けられるようになったとき、はじめて自分の形が見えてくるのだと感じられます。

水と乾きに向き合う段取りの違い

厨房の仕事には水を使う工程が数多く含まれ、一日のうちに何度も手を洗うことになっていきます。この回数をどのように扱っていくのかという考え方に、二つの流儀の違いがはっきりと表れてきます。

使い込む流儀では、水に触れる回数そのものを気にせず、目の前の作業のほうを優先していきます。手が濡れたまま次の工程へ進んでいく速さこそが、現場の流れを支えているという見方もあります。

守る流儀では、水に触れる工程をまとめて済ませ、その後に乾かす間を取るという組み方をします。段取りをほんの少し変えてみるだけで、濡れている時間の合計はずいぶん短くなっていくものです。

拭き取りに使う布を自分の手元に置いておくかどうかにも、考え方の違いがはっきり表れてきます。すぐに拭ける場所へ置いている人は、その一手間が長い目で見て効いてくると考えているようです。

乾いた季節と湿った季節とでは手の状態も変わってくるため、段取りも季節に応じて動いていきます。同じやり方を一年中続けていくのではなく、時期によって組み替えていく柔らかさが役に立つのです。

洗う場面と拭く場面を工程表のなかに書き込んでおくと、慌ただしい日であっても流れが崩れません。決めておいた形があると、忙しさに押されて省いてしまうことが少しずつ減っていくことになります。

冷たい水と温かい水のどちらを使うのかという判断にも、それぞれの流儀の考え方が反映されています。作業の目的に合わせて選べるようにしておくと、手にも生地にも良い結果になりやすいのだといえます。

手を休める時間をどこに置くのかという設計も、長く働き続けるためには欠かせない要素になります。休む時間を先に決めておくようにすると、忙しい日でも自然とその時間を確保できるようになります。

作業の合間に手を動かさない時間を作ることは、感覚を戻すという意味でも役に立っているようです。ずっと動かし続けているよりも、区切りを入れたほうが仕上がりが整うという声も聞こえてきます。

水と乾きに向き合うための段取りは、店ごとにも人ごとにも違っていて、正解が一つには定まりません。自分に合う形を探し続けていく過程そのものが、この仕事の一部になっているのだと感じられます。

道具に任せるか手の感覚に頼るか

混ぜる工程や練る工程では、道具に任せるか手の感覚に頼るかという選択が毎日のように生まれます。この選択の積み重ねこそが、その人らしい作り方をゆっくりと形づくっていくことになっていきます。

手の感覚に頼る流儀は、細かな変化にすぐ気づくことができるという点で確かな強みを持っています。生地のまとまり方や温度の移り方は素手だからこそ分かるという声も、根強く残っているものです。

道具に任せる流儀には、同じ質を保ちやすく、体への負担も抑えられるという利点が備わっています。人が変わっても同じ結果に近づけられるということは、店を続けていくうえで大きな意味を持ちます。

近ごろは、工程ごとに使い分けていくという考え方が少しずつ広がってきているように感じられます。感覚が必要な場面では手を使い、そうでない場面では道具のほうに任せるという静かな線引きです。

使い分けを決めるためには、その工程で何を確かめたいのかをはっきりさせておく必要があります。目的さえはっきり定まっていれば、手と道具のどちらを選ぶべきなのかは自然と見えてくるものです。

手袋や器具を使う場面についても、店ごとに考え方が分かれているところがあるようだと聞きます。どちらの流儀であったとしても、目的を言葉にできていればその選択に納得が生まれてくるものです。

道具を使うと感覚が育たないという意見もありますが、道具の手ごたえから学べることもあります。道具を通して伝わってくる重さや抵抗のなかにも、読み取れることが確かに含まれているものです。

重いものを扱う場面では、道具や台の高さを工夫することによって、体への負担が変わってきます。作業台の高さが合っていないというだけで、同じ作業であっても疲れ方がまるで違ってくるものです。

自分の体格や手の大きさに合った道具を選ぶことも、長く働き続けるための大切な工夫になります。自分に合わない道具を使い続けていると、余分な力が必要になってしまうことが少なくありません。

手か道具かという問いは、どちらが優れているのかを決めてしまうための話ではないように思われます。その日その工程で何を大切にするのかを選び取る力こそが、静かに問われているのだと感じられます。

学びの場で分かれていく二つの姿勢

製菓の専門学校では、手を使う課題と道具を使う課題の両方に触れる機会が丁寧に用意されています。両方を経験しておくと、現場に出てから自分に合う形のほうを選び取りやすくなっていくものです。

教える側は、どちらか一方を押しつけるのではなく、それぞれの良さを丁寧に伝えてくれるようです。選ぶのは自分だという前提があるからこそ、自分で考えながら学ぶ姿勢が育っていくことになります。

実習が続く時期には、手の使い方について相談できる相手が近くにいることが心強く感じられます。気になることがあれば早めに伝えておくようにすると、段取りを一緒に見直してもらえることもあります。

仲間と話してみると、同じ作業であっても力の入れ方や道具の選び方が違うことに気づかされます。その違いを知ることが、自分のやり方をもう一度見つめ直すきっかけになってくれることも多いようです。

手入れの習慣についても、学ぶ期間のうちに自分なりの形を作っておくと後がずいぶん楽になります。現場に出てからでは、新しい習慣を始めるための余裕をなかなか持てないという声も聞かれるからです。

立ち姿勢や道具の持ち方まで見てもらえる時期は、思っている以上に貴重な期間になってくれます。癖がついてしまう前に整えておくことができると、長く働き続けるための土台がしっかりしてくれます。

学ぶ場では無理をしない範囲で試せるため、自分に合う方法をゆっくりと探していくことができます。合わないと分かったやり方を早い段階で手放せるということにも、とても大きな価値があるといえます。

課題の記録に、その日の体の使い方まで書き添えておくと、後から振り返るときに役立ってくれます。仕上がりだけでなく、どのように作ったのかを残しておくことで、見えてくるものが増えていきます。

卒業してからも相談できる関係を残しておけると、迷ったときに立ち返れる場所になってくれます。人とのつながりというものが、技術と同じくらい長く支えてくれるという話をよく耳にするものです。

二つの姿勢のどちらを選ぶにしても、自分の体とよく相談しながら決めていくことが何より大切です。長く続けたいという願いが根っこのところにあれば、選び方は自然と定まっていくように思われます。

まとめ

手荒れと体の手入れをめぐって、手を使い込む流儀と早くから手入れを習慣にする流儀とを並べて見てきました。どちらもこの仕事を大切にしたいという同じ気持ちから生まれており、対立して見えても重なり合う部分がとても多いといえます。

手は道具であると同時に、細かな違いを受け取るための感覚の窓口でもあるため、どう扱うかという問いは長く付きまといます。水を使う工程が多い仕事であるだけに、それぞれのやり方で自分の手をいたわる習慣を静かに持っている人が多いようです。

水に触れる工程をまとめて済ませ、その後に乾かす間を取るという組み方は、段取りを少し変えるだけで実現できるものです。決めておいた形が工程表のなかにあれば、慌ただしい日であっても流れが崩れにくくなり、省いてしまうことも減っていきます。

混ぜる工程や練る工程では、道具に任せるか手の感覚に頼るかという選択が毎日のように生まれてくることになっていきます。工程ごとに何を確かめたいのかをはっきりさせておけば、手と道具のどちらを選ぶべきかは自然と見えてくるようになります。

作業台の高さや道具の大きさが自分に合っているかどうかも、長く働き続けるためには見落とすことのできない要素になります。合わない道具を使い続けていると余分な力が必要になってしまうため、選び直すという判断も工夫のひとつだといえます。

学ぶ期間のうちに手を使う課題と道具を使う課題の両方に触れておくと、自分に合う形を選び取りやすくなっていくものです。癖がついてしまう前に立ち姿勢や道具の持ち方まで見てもらえる時期は、思っている以上に貴重な期間になってくれるはずです。

気になることがあれば独りで抱え込まず、先輩や学びの場の先生に相談できる関係を持っておくことが何よりの支えになります。長く続けたいという願いが根っこにあれば、二つの流儀のどちらを選ぶにしても、自分の形は自然と定まっていくように思われます。