同じ配合のまま季節をまたいで作り続けて味を落とした日の後悔と材料の移り変わり

去年のとおりに作って悔いの残った日のこと

去年と同じ配合で同じ手順を踏んだはずなのに、仕上がりがどこか物足りなかったという経験があります。材料も道具も変えていないつもりでいたため、なぜ違ってしまうのかと長いあいだ戸惑うことになります。

後から振り返ってみると、季節が変わって素材の様子が動いていたことに気づかされる場合が多いのです。目の前の粉や果実は同じ名前であっても、去年の同じ時期とまったく同じ顔をしているとは限りません。

失敗の原因を自分の手つきだけに求めてしまうと、いつまでも本当の理由にたどり着けないことがあります。自分を責めてしまう前に、材料と環境の側で何が動いたのかを並べて眺める習慣が助けになってくれます。

配合を書き留めた紙はとても便利ですが、そこに書かれていない条件のほうが仕上がりを左右する場面もあります。そこに書き残せない部分をどのように補っていくのかが、作り手にとっての長い課題になっていきます。

同じ果実であっても、時期が進めば水分や甘みの出方が変わり、生地との相性まで静かに動いていきます。去年の記憶をそのまま当てはめてしまったときに、悔いの残る仕上がりになりやすいように感じます。

パティシエとして働きはじめた頃は、決められたとおりに作ることこそが正しさだと思い込んでいました。けれども現場に立ち続けるうちに、決められた形を守るだけでは届かない場面があることを知りました。

うまくいかなかった日の記憶は苦いものですが、その苦さがあるからこそ次に確かめる習慣が生まれてきます。うまくいった日の記憶よりも、思うようにいかなかった日のほうが多くを教えてくれることがあります。

先輩に相談したときに、まず素材の状態を見てから手順のほうを疑いなさいと言われたことがあります。確かめる順番を入れ替えるだけで、原因を探していく道のりがずいぶん短くなることに気づかされました。

悔いが残るのは、結果が思わしくなかったからではなく、確かめられたはずのことを見過ごしたからです。だからこそ次の一回では、始める前に素材の顔をしっかり見ておこうという気持ちになってきます。

同じつまずきを繰り返さないためには、その日の状態を短い言葉にして残しておくことが役に立ちます。書き残しておいた一行が、翌年の同じ時期に自分を助けてくれるという場面は決して少なくありません。

材料は毎年同じ顔をしていないという事実

お菓子を作る材料の多くは自然から生まれてくるため、年ごとに少しずつ様子が変わっていきます。同じ名前で届いたものであっても、香りの強さや水分の含み方にはその年ごとの確かな差があるものです。

果実は熟し具合によって甘みも酸味も動いていき、火を入れたときの縮み方まで静かに変わってきます。だから仕込みに入る前に少し口に含んで確かめるという手順が、現場では静かに大切にされています。

粉は保管されていた場所や時期によって湿り気を含み、生地のまとまり方に静かな影響を与えます。袋を開けた瞬間の手触りを覚えておくと、後になってから小さな違いにも気づけるようになっていきます。

乳の風味も季節によって変わるといわれ、その小さな差が仕上がりの後味にゆっくりと表れてきます。作り手はその移ろいを欠点としてではなく、その季節らしさのひとつとして受け止めようとしています。

同じ産地から届いた素材であっても、その年の天候によって表情が変わるという話は現場でよく聞かれます。だから届いた素材の様子を見てから配合を決めるという順番が、理にかなった進め方になってくれます。

配合を少し動かすという判断には勇気がいりますが、あえて動かさないという判断もまた一つの選択です。どちらを選んだのかを記録に残しておくと、後から振り返ったときに理由をたどれるようになります。

素材の違いを味方につけられるようになると、同じ品でも季節ごとに違う表情を楽しんでもらえます。今年はこういう味わいですと自分の言葉で伝えられることが、作り手にとっての誇りになっていきます。

反対に、違いを見ないふりをしたまま進めてしまうと、どこか噛み合わない仕上がりになってしまいます。その噛み合わなさは食べる人にも伝わってしまうため、できるだけ早いうちに気づきたいところです。

素材を扱う人と言葉を交わせる関係があると、今年の様子を前もって知ることができるようになります。届く前から心づもりができていれば、慌てることなく仕込みの組み立てを先に整えることができます。

毎年同じ顔をしていないという事実は、面倒なことのようでいて、この仕事の面白さでもあると感じます。同じ品を作り続けているのに毎年新しい判断が求められるという点に、静かな手ごたえがあります。

季節ごとに変わる厨房の空気と生地の機嫌

厨房の空気は季節によって大きく変わっていくため、同じ手順でも生地のまとまり方が違ってきます。夏の湿った空気と冬の乾いた空気とでは、手のなかでの生地の伸び方がまるで別のものになってしまいます。

暑い時期には材料がゆるみやすくなり、扱える時間が短くなるため段取りの組み方まで変わります。作業を細かく区切りながら進めるという工夫が、この時期の仕上がりを静かに支えてくれることになります。

寒い時期には材料が締まりやすくなり、混ざりにくさから思わぬ塊が残ってしまうことがあります。だから前もって置いておく場所を選んでおくという小さな準備が、大きな差になって表れてくるのです。

湿り気の多い日には、粉をふるった表面が沈んでしまい、飾りの粉が消えてしまうこともあります。その日の空気を確かめてから仕上げの方法を選び直すという柔らかさが、この時期には必要になります。

風の通り道に置いてしまうと、片側だけが早く乾いてしまい、表情が偏ってしまうこともあります。厨房のどこに置いておくのかという小さな判断も、季節によって静かに変えていく必要が出てきます。

季節の変わり目はとりわけ難しく、昨日までの感覚が今日は通じないという場面が続けて起こります。この時期に慌てないためには、朝いちばんに厨房の空気を確かめておく習慣が助けになってくれます。

作り手の体の調子も季節に左右されるもので、手の温度や汗の出方が作業に影響することがあります。自分の体の状態も条件のひとつだと考えておくと、原因を探すときの見通しがずいぶん良くなります。

季節ごとに並べる品を変えていくのは、素材の都合だけでなく、作業のしやすさとも深く関わっています。無理のない段取りで作れる品を選んでおくことが、結果として仕上がりの安定にもつながっていきます。

同じ品を一年を通して売り場に出していく場合には、季節ごとに細かな調整を重ねていくことになります。表からは見えないこうした調整の積み重ねが、いつもの味という印象を静かに支えてくれているのです。

空気の変化に合わせて手を変えられるようになると、季節は敵ではなく心強い相棒に変わってきます。厨房の窓の外に広がる景色と、目の前にある生地とがつながって見えてくる瞬間が確かにあるのです。

学びの場で受け取った一年を見渡す目

製菓の専門学校では、一年を通して季節ごとの素材に実際に触れていく時間が丁寧に用意されています。同じ課題を時期を変えて繰り返すことで、条件の違いを頭ではなく体で受け取れるようになっていきます。

教わる内容には、配合の考え方だけでなく、素材を見てから判断するための視点も含まれています。この視点を持てるかどうかということが、現場に出てからの伸び方を大きく変えていくように思われます。

実習でうまくいかなかったときには、その場で理由を一緒に探してもらえるという環境が整っています。原因を自分の言葉にする練習を重ねておくと、独りになったときにも自分で探せるようになっていきます。

学びの場では、失敗が大きな損失にならないという安心があり、思い切って試してみることができます。この時期にどれだけ幅広く試したかが後になって効いてくるという話を、現場に出てからよく耳にします。

季節ごとの記録を残す課題に取り組んでおくと、一年分の変化が自分の手元にまとまっていきます。卒業した後になってその記録を読み返し、助けられたという声も少なからず聞こえてくるものです。

仲間と同じ課題に取り組んでみると、同じ日の同じ材料であっても結果が違うという事実に出会います。その差がどこから来たのかを話し合う時間が、条件を見る目を静かに鍛えてくれることになります。

教える側は、正解を一つに決めてしまわないような伝え方をしてくれることが多いように感じられます。条件が変われば答えも変わるという前提を早く受け取れると、後の判断がずいぶん柔らかくなります。

学ぶ期間のうちに一年の巡りを一度通して経験しておくと、現場での見通しが立ちやすくなります。次の季節に何が起こるのかを知っているというだけで、準備の質はずいぶん変わってくるものだと感じます。

学びの場を出た後も、季節ごとに確かめ直すという姿勢はそのまま持ち続けていくことになります。一度身につけた見方というものは、材料が変わっても道具が変わっても長く働き続けてくれるものです。

あのとき教わった見方を持っていれば、あの日の悔いは避けられたかもしれないと思うことがあります。だからこそ、いま学んでいる人にはこの条件を見る目を何よりも大切にしてほしいと心から願っています。

まとめ

材料の移り変わりと季節の変化を見てきましたが、去年と同じ手順を繰り返すだけでは届かない場面があると分かります。仕上がりが物足りなかった日の本当の理由は、手つきよりも素材と空気の側で静かに動いていたことが多いのです。

お菓子の材料は自然から生まれてくるため、同じ名前で届いたものであっても香りの強さや水分の含み方には差が出てきます。届いた素材を見てから配合を決めるという順番に切り替えるだけで、噛み合わない仕上がりはずいぶん減っていきます。

厨房の空気も季節によって大きく変わり、湿った時期と乾いた時期とでは生地のまとまり方がまるで別のものになってしまいます。朝いちばんに厨房の様子を確かめておく習慣を持っていると、季節の変わり目にも慌てずに段取りを組み直せます。

悔いが残るのは結果が思わしくなかったからではなく、確かめられたはずのことを見過ごしてしまったからだと気づかされます。だからこそ次の一回では、作りはじめる前に素材の顔をしっかりと見ておこうという気持ちが自然と生まれてきます。

その日の状態を短い言葉にして書き残しておくと、翌年の同じ時期に読み返したときに自分を助けてくれる一行になります。うまくいった日の記録よりも、思うようにいかなかった日の記録のほうが役に立つ場面は驚くほど多いものです。

学びの場で一年の巡りを通して経験しておくことは、現場に出てからの見通しを立てるうえで大きな支えになってくれます。条件が変われば答えも変わるという前提を早いうちに受け取れると、判断が柔らかくなって迷いも静かに減っていきます。

毎年同じ顔をしていないという事実は、面倒なことに見えて、実はこの仕事を長く面白くしてくれる贈り物のようなものです。今年はこういう味わいですと胸を張って伝えられるようになったとき、季節は敵ではなく心強い相棒に変わります。パティシエの専門学校のことならこちら